なぜ朝ドラ【舞いあがれ!】は、特別なドラマになったのか

なぜ朝ドラ【舞いあがれ!】は、特別なドラマになったのか

ゴールに向けて最終コーナーを回った2022年年度後期のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)『舞いあがれ!』。視聴者から激しいバッシングを浴びた前作『ちむどんどん』の後だけに、ごく普通のドラマにすれさえすれば、自ずと良い評判を得る作品になると思われました。

連続テレビ小説 舞いあがれ! Part2 (NHKドラマ・ガイド) 

そういうことならばと、敢えてこのサイトで取り上げることもないと、高をくくっていました。ところが、“普通のドラマ”らしく予定調和のはずのストーリー

予想を裏切る展開を見せたのです。

普通どころか、敢えて視聴者の忍耐力に挑戦しつつ、今の日本人の姿を赤裸々に映し出す、リアル感ある秀作しようとしていると気づいたのです。

そこで、人々の心を静かに打ち続けるこのドラマの企てを、遅ればせながら明らかにしてみたいと思います。

★NHKオンデマンド『舞いあがれ!』

①安定した助走

朝ドラは通常、主人公の子供時代から始まります。『舞いあがれ!』もそれにならって主人公・岩倉舞(浅田芭路)は小学3年生からスタートしました。

ドラマの冒頭で必要なことは、朝ドラに限らず、視聴者に主人公へ早く感情移入してもらうことです。そのためには、『ちむどんどん』の主人公・暢子のように、決して視聴者に

「妬み」を感じさせてはいけません。

その点、舞の子供時代は的確に設定されました。それは、直ぐに熱を出してしまう体の弱い女の子。他の子のように、一日中走り回ることはできません。そのために自信が持てません。そういう彼女を見て、視聴者は「可愛そう」と思い、同情してしまう、つまり

共感してしまうのです。

また、朝ドラの特徴には、老若男女の視聴者を対象にしているところもあります。そのため、年齢、性別の違う脇役も共感される必要があります。その点でも、

このドラマは手を抜いていません。

母・めぐみ(永作博美)は、一向に苦しみから抜け出せない娘の姿を見て自分の無力さに悩む。父・浩太(高橋克典)は、脆弱な町工場を何とか存続させようと苦労しています。さらに、兄・悠人(海老塚幸穏)は、いつも舞が中心になっている家族に不満を持っています。それぞれが、それぞれの年齢層が共感できる事情を抱えています。

そしてドラマは、これらの登場人物が自分の課題や問題を乗り越えようとする姿を丁寧に描いていきます。

舞いあがれ!(NHKオンデマンド)

舞は祖母・祥子(高畑淳子)の住む長崎の五島で、殻から抜け出そうとします。めぐみは、若い頃に断絶した祥子との亀裂を舞のために修復しようとします。そして祥子は、苦しむ二人を包み込む。

どこでもありそうな家族の葛藤と試みを淡々と描く演出が、視聴者をますます引き込むことになっています。

②離陸は期待通り

視聴者を持続的に引き付ける効果的な方法は、主人公にちょっと難しい目標を設定することです。

それはつまり、夢です。

これはドラマの最初のシーン。パイロットの大人の舞。そして、彼女が操縦する旅客機の座席にいる子供の舞と家族。この“夢”のシーンによって、舞の目標(夢)を視聴者に定着させています。

その舞(福原遥)の夢が動きだすのが、大学時代です。ここからの舞は、典型的な“朝ドラの主人公”になっています。『ちむどんどん』の暢子のように元気で前向きですが、舞はそれだけではなく、人の心に寄り添えるという

共感ポイントはしっかり抑えています。

ところが、人力飛行機の代替パイロットになった辺りから、視聴者も怪訝に思う展開が続きます。貧弱だった体で、人力飛行機のフライトを見事やってのけたり、難関の航空学校を一発で合格し、さらに落第せずに見事に卒業するという、

夢に向かって出来過ぎの展開。

さらに、降って湧いたような恋愛話にも、あまり波乱はありませんでした。最初はヒールだった同期の柏木弘明(目黒蓮)に好かれて、突然恋人同士に。さらに、意外と思慮深く優しい人物だった“鬼教官”の大河内(吉川晃司)に、舞が惹かれる兆しも皆無でした。

周りがすべて“良い人“だらけになるのも、視聴者にとっては面白みが欠ける原因なります。その証拠として、このあたりからSNS上でドラマに対する批判の声が目立つようになりました。

しかし、この出来すぎた航空学校時代が、次に訪れる“悲劇”をより一層ドラマチックにさせることになります。つまり、

崖の落差を付けるパートだったのです。

③乱気流の発生

朝ドラの定番の一つに、先の世界大戦を物語の中核にする展開があります。最近では、『おちょやん』『エール』、そして前作の『ちむどんどん』もそうでした。しかし、当時を知る視聴者は年々減り、追体験できる人の割合も少なくなりました。

だからといって『あまちゃん』『おかえりモネ』の様に、東日本大震災で被災した主人公への共感は、当事者でない視聴者には無理なところがあります。

そこで今回のドラマが“大きな災難”としてもってきたのが、

リーマンショックです。

これならば、多かれ少なかれ、ほとんどの視聴者が被害を影響を受けた社会的イベントです。

ですので、浩太が借金をして拡大した工場が、大きなダメージを受けて倒産の危機に陥る状況を、視聴者は追体験できたでしょう。そして、浩太が突然亡くなり、舞が航空会社の内定を断って工場を手伝うという決断。これはある意味、

視聴者の期待を裏切る展開です。

普通のドラマでしたら、ここで視聴者はガッカリします。「旅客機の機長になることはどうなってしまうのか」。時代の先端を颯爽と走っていた舞が、町工場の娘に逆戻りです。それも、手伝いでなく、営業担当という本腰です。しかし、この大展開が、

このドラマの目的だったのです。

朝ドラの主人公は、「夢に目指す」とか「自分探し」を目的にするキャラの場合が多い。しかし、それは同時に、自分勝手で家族を蔑ろにする姿にならざるをえない。「ちむどんどん」の暢子は、この点で多くの批判を受けました。

ただ同時に、地味な現実的状況にヒロインを置くことは、昭和の時代ならともかく、現代のトレンドではなく、敬遠されてしまう恐れもあります。

しかし、制作側は、敢えて舞の徹底した純粋さで中央突破させると同時に、功利主義(今のトレンド)の象徴としての悠人(横山裕)を見せることで、現代のリアルさを表現することに成功しているのです。

④無事着陸はできるか?

いよいよ終盤に入ってきたこのドラマ。次は、果たして「どのように着地するのか」について考えてみたいと思います。まず、

ゴールは大きく2つが予想されます。

一つは、ソフトランディングです。舞はIWAKURAが飛行機部品を生産できるようになったのを見届けて、再び航空会社を入社試験に挑戦し、旅客機のパイロットとして最初の夢のシーンを実現させるというものです。

最終回まで約2ヶ月。工場での飛行機部品のプロジェクトはほぼ終盤に来ているので、ギリギリ間に合う展開です。この流れになれば、舞の操縦する旅客機の客席に、めぐみや悠人など主な登場人物が座っているという、

感動的なエンディングになるでしょう。

連続テレビ小説 舞いあがれ! FANBOOK

そしてもう一つケースは、ハードランディング

この場合、舞はパイロットになることを完全に諦めて、IWAKURAの経営をライフワークと定めます。つまり、次期社長を目指す流れです。

物語は、IWAKURAのネジが、大手メーカーの菱崎重工に採用され、そして実際飛行機に組み込まれるプロセスが描かれることになりますが、一回ぐらい製造から撤退の危機に見舞われるかもしれません。

ただこの流れは、これまでの見てきた工場のシーンの繰り返しになり、視聴者にとって飽きがくる可能性があります。そこで新たに焦点が当たるのが、

工場以外のサブストーリーです。

まず舞が離れると放置されてきた五島の話。舞が何らかの理由(祥子が倒れる?)で帰ってくれば、再び五島が舞台の中心になります。

そこで、計画されていた「五島を盛り上げるプロジェクト」が話題に。舞の子供のころの経験を参考にして、閉じこもりがちの子供を島に呼ぶ企画(凧揚げ大会?)が、実施に移されるかも知れません。これだけで、2週間ぐらいが埋まります。また、忘れていけないのが、

悠人の話です。

子供の頃から闇を抱えている悠人。ある意味、現代の若者の代表ともいえる彼のわだかまりを、舞が解決する姿をうまく描けば、このドラマの価値を更に高まるでしょう。

⑤舞の恋、そして結婚の行方は?

朝ドラとしては避けて通れないのが主人公の恋の行方です。舞の恋は、どこかのタイミングで

再び盛り上がるはずです。

1月27日の放送時点では、倒産しかけた工場の立て直し、そして飛行機部品への挑戦と、舞は多忙を極め、恋の余裕もありませんでした。(これもある意味リアルです)

舞の夢はどこへ?

しかし、工場奮闘編が一段落したら、舞の恋はいきなり始まる可能性が高いと予想します。なぜなら、最近の朝ドラは

恋にいきなり火がつくケースが多い。

「ちむどんどん」では暢子は、ハッと気が付いたとばかりに青柳和彦と恋仲になりました。また、舞も航空学校で同期の弘明とアッという間に恋に落ちました。それでは、最終的に

舞は誰と結ばれるのか?

幼なじみの梅津貴司(赤楚衛二)でしょうか。最近、舞は毎日、貴司があずかる「古本屋デラシネ」を訪れ、まるで夫婦のような雰囲気を醸し出しています。

しかし、このまま二人は結ばれるでしょうか。それではあまりにも平凡です。例の如く、ライバルが現れて三角関係になるのではと予想します。そして争奪戦の末、舞が勝って貴司と結婚するか、それとも貴司の結婚を祝福するか。どちらにしても、

舞の最後の試練となるはずです。

相手が貴司でない場合は、誰になるでしょう。今更、新しい人物を登場させる“暇“はないでしょう。だとしたら、既に登場した人物になります。候補になるのは五島で船大工の木戸豪(哀川翔)の下で働いている浦一太(若林元太)か、それとも大学の先輩、刈谷博文(高杉真宙)か。

しかし、舞と一太や博文とは関係は、これまでさほど深まっていません。だとすると、残されたのは航空学校の独身の3人。そして、一番ドラマチックなのは、弘明との関係が復活するパターンです。さてどうなるか・・・。■

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