名作【ちゅらさん】と奇作【ちむどんどん】を比較してみて分かったこと
2022年度の前期、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」。沖縄復帰50年を記念した沖縄の家族をめぐるドラマです。しかし、放送開始から期待を裏切る出来の悪さに朝ドラのファンから不満が噴出しました。
さすがに終盤にはどこかに良さを見出せるだろう。しかし、浮上する兆しは一向になく、ツイッター上で#ちむどんどん反省会というタグが連日異例の盛り上がりを見せるなど、その評判の悪さは決定的なものになりそうです。
なぜ面白くないのか?つまらないのか?
元来、朝ドラは時々、そう言われたりしますが、今回の朝ドラは、それ以上に「イライラする」とか「ドン引き」など、嫌悪ともいえる反応が視聴者に見られます。
それはいったいなぜなのか。
そこで今回は、「ちむどんどん」が前代未聞の不評を買っている原因の数々を解き明かしていこうと思います。
「ちむどんどん」は、本当に面白くないのか。
まず事実確認です。「ちむどんどん」は、実際、多くの人が面白くないと思っているのか。手っ取り早く調べる方法は、
視聴率です。
さっそく過去の朝ドラ作品と「ちむどんどん」(8月19日放送分まで)の平均視聴率を比べてみましょう。(大昔の作品との比較は意味がないので、過去10年間の作品に絞りました)
放送年 | タイトル | 視聴率(%) | 主演 |
2012年度・前期 | 梅ちゃん先生 | 24.9 | 堀北真希 |
2012年度・後期 | 純と愛 | 17.1 | 夏菜 |
2013年度・前期 | あまちゃん | 20.6 | 能年玲奈 |
2013年度・後期 | ごちそうさん | 22.3 | 杏 |
2014年度・前期 | 花子とアン | 22.6 | 吉高由里子 |
2014年度・後期 | マッサン | 21.1 | 玉山鉄二ほか |
2015年度・前期 | まれ | 19.4 | 土屋太鳳 |
2015年度・後期 | あさが来た | 23.5 | 波瑠 |
2016年度・前期 | とと姉ちゃん | 22.8 | 高畑充希 |
2016年度・後期 | べっぴんさん | 20.3 | 芳根京子 |
2017年度・前期 | ひよっこ | 20.4 | 有村架純 |
2017年度・後期 | わろてんか | 20.1 | 葵わかな |
2018年度・前期 | 半分、青い。 | 21.1 | 永野芽郁 |
2018年度・後期 | まんぷく | 21.4 | 安藤サクラ |
2019年度・前期 | なつぞら | 21.0 | 広瀬すず |
2019年度・後期 | スカーレット | 19.4 | 戸田恵梨香 |
2020年度・前期 | エール | 20.1 | 窪田正孝ほか |
2020年度・後期 | おちょやん | 17.4 | 杉咲花 |
2021年度・前期 | おかえりモネ | 17.4 | 清原果耶 |
2021年度・後期 | カムカムエヴリバディ | 17.1 | 深津絵里ほか |
2022年度・前期 | ちむどんどん | 15.74* | 黒島結菜 |
こうして並べてみると、「ちむどんどん」の数字の低さがダントツです。もちろんNHKの番組が最近、ネット(nhk+)で見られたようになったこともあるでしょう。しかし、このサービスが始まった2020年前期以降の「エール」~「カムカムエヴリバディ」と比べても格段に悪くなっています。
最も視聴率が悪かったのが、13.6%の第18話。賢秀がドルの変動相場制への移行で大儲けすると言い張り、家族に啖呵を切る場面が“印象的”な回でした。その後、逆に評判の悪さがニュースになったこともあり、現在は15~16%で推移しているようです。
面白くない原因は何なのか。
それを分かりやすく解き明かすために、「ちむどんどん」と似た設定やストーリーにも関わらず、非常に評判が良かった過去の朝ドラと比較してみることにしました。それが、
2001年放送の「ちゅらさん」です。
このドラマは、初回放送時こそ平均視聴率22.2%でしたが、非常に好評を博し、その後も特別編が3回に渡り制作された朝ドラの名作です。
(2024年4月より再放送中です。月~金曜午後0時半より)
このドラマは、見れば見る程「ちむどんどん」と酷似しています。簡単にあらすじを紹介すると、次の通りになります。
沖縄の八重山諸島小浜島で育ったヒロイン、古波蔵恵里(国仲涼子)が那覇へ移り住み、やがて上京して看護師を目ざす。“おばぁ”やあったかい家族、東京で一緒に暮らす「一風館」の住人たちに見守られ、成長する姿を描いていく。(出典:NHKのサイトより)
また時代設定が微妙に被っています。主人公の恵理が生まれたのは、沖縄が日本に復帰した1972年。「ちむどんどん」では、主人公の暢子が高校を卒業して上京した年です。つまり、「ちむどんどん」の方が18年ほど先行しています。
キャラクターで比較する
朝ドラの場合、ストーリーはもちろん、キャラクターの魅力がドラマの面白さを大きく左右します。なぜなら、半年間、週5日、登場人物を見守り続ける視聴者にとって、家族のような存在になるからです。そのために必要なのが、
「共感」そして「感情移入」です。
まず2作品の登場人物を比較しやすいように、対照表を作ってみました。
「ちむどんどん」 | 「ちゅらさん」 | 役柄 |
比嘉暢子 | 古波蔵恵理 | 主人公 |
比嘉優子 | 古波蔵勝子 | 母親 |
比嘉賢三 | 古波蔵恵文 | 父親 |
比嘉賢秀 | 古波蔵恵尚 | 兄 |
比嘉良子 比嘉歌子 | 古波蔵恵達 | 兄弟 |
大城房子(オーナー) 平良三郎(県人会会長) | 古波蔵ハナ(祖母) | 指南役 |
青柳和彦 | 上村文也 | 運命の人? |
我がままで鈍感な暢子
朝ドラで特に重要になるのが、主人公のキャラクター設定です。彼女(彼)が持ち合わせていなければならない要素は何でしょうか。それは、次の3つの性格です。
- 明るさ
- 前向き
- 物怖じしない
これらの点については、「ちむどんどん」の暢子、そして「ちゅらさんの」の恵理、両者とも見事にクリアーしています。どんな困難に遭っても、負けずに、明るく立ち向かっていく姿は、朝ドラにふさわしいポジティブな雰囲気を作り出します。
しかし、これだけでは主人公が「薄っぺら」で「能天気」に見えて、視聴者は次第に離れていきます。そこで次に重要なのが、
次の3つの「できる」です。
- 人を思いやることができる
- 失敗を素直に反省できる
- 人に感謝できる
恵理は、表面上は暢子のように猪突猛進です。しかし、人を思いやる心はしっかり持っていました。幼い頃は東京からやってきた家族と知り合い、その長男の死に直面する気持ちに寄り添い、同じように思い悩みました。大人になってからは、家族や周りの人に心配りをする姿を各所に見せていました。
一方、暢子はどうでしょう。彼女は、人のことを思いやるどころか、
いつも自分のやりたいことで頭がいっぱい。
それも笑ってしまうぐらい単純で、最初は「おいしいものを食べること」、それが高じてその後は「料理人になること」。さらに失敗しても、真の底から反省する素振りは見せず、代わりに人を非難し、助けてくれる人を心から感謝することがありません。
他の朝ドラのように、彼女に思いを寄せる男たちが複数存在していますが、そういう男たちの気持ちに対しても、
あきれるぐらい鈍感です。
それはある種、普通の子供以下かもしれません。さらに家族への思いやりも、非常に薄っぺら。父・賢三が亡くなった時、ひとり東京へ貰いに行かれる決心をしますが、結局、「家族といっしょにいたい」という小我でドタキャンしてしまいました。(当然、東京に行くだろうという視聴者の期待を裏切りました)
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今回の暢子のように、朝ドラの主人公は往々にして自由奔放で脱線しやすいキャラです。
それを親が、時折、厳しくする正すことによって、本人が深く反省し、6か月かけて成長していく。視聴者はそれを見守ることで、主人公への共感度や親近感を高めていきます。
「ちゅらさん」の場合、いつもは応援している母親・勝子が、周りが見えず脱線する娘・恵理を厳しく叱り、娘が極度に落ち込んだ時は暖かく支えます。そのバランスが絶妙です。一方、父・恵文は、恵理に対して大甘ですが、いざというときに身に染みる一言を発します。
父・賢三は、子供たちが大人になる前に死去し、賢秀たちを厳しくしつける場面はありませんでした。しかし、その同罪ぶりが明らかになったのが第94話の回想シーンです。少年時代の賢秀が店からお金を盗んだ際、「お前は悪い人間じゃない」と言って、代わりに自分が刑務所に入るとまで言いました。
これが賢秀の源になる出来事になっています。
賢三が亡くなったあと、暢子を導く役目は、主に母・優子が担うことになりました。しかし、優子はただただ優しいだけで、
子供たちを強く叱ることは皆無です。
暢子の行動に対しても、基本、無条件に賛同しています。これでは暢子が深く反省し、成長し、感謝するという、朝ドラの“黄金のパターン”をつくりだすことができません。
制作側としては、戦争にうちのめされながも、家族を作ることで生き抜くことができた賢三と優子の過去を“子供に大甘”の理由にしたいのでしょうが、表面的な優しさは子供を勘違いさせるだけです。(実際、そうなっています)
性根が腐っている兄・賢秀
今回の朝ドラで暢子以上に足を引っ張ているのが、兄・賢秀です。お調子者で利己主義の権化みたいな人物です。まず問題なのが、
決して改心しないことです。
そして、学ばないことです。
ドラマでは必ず登場する「性悪人物」。しかし、そんなキャラでも見るものを引き付け、感動を与えることができます。そのためには、間違いを悔い改め、成長する必要があります。それが主人公の家族ならなおさらです。しかし、
賢秀は変わる素振りを一切見せません。
「ちゅらさん」でも、表面上同じような人物がいました。恵理の兄・恵尚です。いつも「商売で一発当てよう」と考え、大金を安易につぎ込み大失敗。そして、家族の前から姿を消すところまで、賢秀とそっくりです。しかし、
賢秀と恵尚には大きな違いがあります。
恵尚には、失敗した際の家族に示す深い反省に加え、純粋な家族への思いが感じられるのです。そのため、視聴者は憎み切れず、「仕様がないな~」と許してしまうのです。
ところが賢秀は、家族の寛容さにいつまでも甘え、裏切り続ける。それは犯罪的でもあります。さらに悪いことに時に暴力的です。
ドラマの前期では、中途半端なチンピラのレベルだったので、画面に姿を現すだけで嫌悪感を与える程度でした。しかし、終盤になってねずみ講にはまり、遂に
反社グループに大接近する始末。
視聴者からは「家族の縁を切った方がいい」という声まで上がましたが、ドラマでは比嘉家どころか取り巻きまで叱責する者はいません。さらに、
200万円が都合よく補填されるおまけ付です。
もちろん、賢秀は主人公の兄ですから、朝ドラらしく最後は大逆点の「良い人」に大変身させるはずです。しかし、どう描いても取って付けた感は免れないでしょう。
ユーモアがない比嘉家
朝ドラに大切なのは底抜けの明るさです。主人公のまわりで、時には失笑するようなギャグを堂々と連発することが必要です。ところが、「ちむどんどん」の比嘉家では、
そんな明るさがありません。
「ちゅらさん」の場合、古波蔵家はいつも笑いにあふれていました。しっかり者の女性陣が、ダメダメの男性陣にツッコミを入れる。このコントのようなシーンが常態化しており、ドラマの明るさに貢献していました。
特に恵理の祖母・おばぁが家族の愚かさを教訓を込めてからかう。それが、一味違った笑いを生んでいました。
ところが「ちむどんどん」の家族には、そういうほのぼのとした空気がありません。賢秀のコミカルさは反感を買い、その他の家族メンバーも基本まじめで、
家族でふざけ合う場面がありません。
その代わり、深刻な問題だけが次々と浮上して、みんなで落ち込んだり、涙する場面が多すぎます。
期待が掛かっていた姉と妹だが・・・
そんな「ちむどんどん」ですが、視聴者の共感を呼ぶと思われていたのが、暢子の姉・良子と妹・歌子です。
二人とも家族思い。同時に自分の夢も叶いたいという立ち位置。視聴者にとって
親近感がわく対象です。
特に注目されたのが歌子です。良子が地元の教師と結婚し、出産するのに対し、歌子は「歌手になる」という大きな夢を抱いていたので、
視聴者の興味が注がれました。
「ちゅらさん」においても恵理の弟・啓達がそんな存在でした。根暗な少年だった彼が、周りのサポートを受けながら、最後はプロのミュージッシャンとして成功を収めます。ドラマのサブストーリーとして、視聴者をわくわくさせました。
しかし、歌子は病気を引きずりすぎです。
子供のころからの病の原因を探るため、歌子は上京しました。これが歌手への大きな転機となるかと思いきや、結局病名は分からず仕舞い。自殺をほのめかすまでに落ち込み、沖縄に帰ってしまいました。
終盤になって歌手になる夢を復活させた歌子ですが、ドラマはすでに終盤。結果がでるのは最後の方と考えられ、脇役でもあるので、ドラマの評判回復に貢献することはなさそうです。
一方、危険な動きを見せているのが姉の良子です。夫の石川家に抵抗して別居するという極端な行動が続いていたのですが、後半に入って外部への果敢な行動が目立ってきました。
その手始めになったのが、突然の上京。和彦の母・重子の家に押しかけて、暢子との結婚を認めるよう強引な説得工作。地元に帰っては、学校の給食システムの改革を一人でごり押ししているあり様です。それは、まるで
暢子が乗り移ったようです。
物語全体のテーマの欠如
ここまでキャラクターを中心に、「ちむどんどん」の欠点を指摘してきました。次は、ドラマ全体の根本的な問題を指摘したいと思います。それは、
大きなテーマがないことです。
それでも、何となくならテーマはあります。「苦しくても前向きに生きる」。でもそれは暢子の性格のように、個人的で薄っぺらで、
あまり心に響きません。
その点、「ちゅらさん」はどうだったか。このドラマには、ありきたりですが、誰でも賛同できる大テーマがありました。それは、
「命の大切さを忘れない」
恵理は子供のころ、間もなく死んでいく少年・文也と出会います。自分の死を受け入れ、そして自分の分まで家族に幸せに生きてほしい。その姿に恵理は衝撃を受け、弟・和也と結ばれることで、文也の思いに応えようとします。
運命的な出会いと別れ、そして再会を軸にして、恵理の悪戦苦闘が描かれます。そして行き着いたのが、「看護師」という職業と文也と作った家族でした。
最後は、亡くなった文也(亡霊)の呼びかけで自分の殻から抜け出した息子・文也(同名)に、恵理が命を救われるというオチまで付いていました。
挽回のチャンスも、結果は・・・
「ちむどんどん」では、主要な登場人物が特異なキャラで固められ、回も随分数を重ねてきたので、そこから作品としての評判を上げるのは至難の業です。それでも、唯一盛り上げる方法がありました。それは、
主人公の三角関係です。
どんなにつまらないドラマでも、主人公を中心とした三角関係をうまく利用すれば、視聴者の興味を引くことは難しいことではありません。「ちむどんどん」でもその下準備はできていました。
まず昔から暢子を密かに好いていた長馴染みの砂川智。そして、少女時代に知り合った東京人の青柳和彦。さらに、歌子は子供のころから砂川にあこがれ、青柳には同僚で恋人の大野愛。
つまり、三重の三角関係が仕組んでありました。
暢子がこの構図の中で、視聴者の共感させられるような思いやりあふれる振る舞いができるかどうか注目されましたが・・・
結果は最悪に。
その原因は、暢子に負けず劣らない和彦の鈍感ぶりです。少なくとも5年以上付き合い、婚約状態にあった愛子を卑劣な形でふったのです。その原因が、暢子によせる“モヤモヤ感”でした。
ここで暢子が愛子に気を遣う素振りを見せていれば、株を上げることになったのですが、結局は和彦に煽られて恋愛気分になりゴールイン。脇で智はピエロを演じるだけの三枚目となり、歌子は寝込むありさま。結局、暢子の恋物語は、
和彦が“もう一人の暢子”になっただけでした。
最終週まであと1か月になろうとする「ちむどんどん」。今後の注目点は、暢子が自分の店のことより出産を第一に考えられるか。そこで暢子の成長を描けるのか。そのあたりに注目したいと思います。■
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