映画【スタンド・バイ・ミー】は実話か?死体は本当にあったのか?

映画【スタンド・バイ・ミー】は実話か?死体は本当にあったのか?

1986年公開の映画「スタンド・バイ・ミー」。アメリカの田舎に住む4人の少年のひと夏の経験を描いた、ノスタルジックあふれる作品です。

その人気は高く、アメリカの有名な映画サイト「ロッテン・トマト」でも以下の通り、高評価をたたき出しています。

評論家91%、一般94%。

見終わると自分の子供時代と重ね合わせてジーンとするのですが、それが落ち着くと気になることがあります。

この映画は実話をもとにしているのか?

死体の話は本当なのか?

そこで今回はそのあたりの真相に迫ってみたいと思います。さらに興味深い舞台裏エピソードも合わせてご紹介します。再びこの映画を見る時、味わいも一層深まること間違いなしです。

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本題に入る前に、作品の概要あらすじを振り返っておきましょう。

監督ロブ・ライナー
脚本ブルース・エバンス
レイノルト・ギデオン
プロデューサーブルース・エバンス
アンドリュー・シェインマン
出演者ウィル・ウィートン(ゴーディ)
リバー・フェニックス(クリス)
コリー・フェルドマン(テディ)
ジェリー・オコンネル(バーン)
キーファー・サザーランド
リチャード・ドレイファス
音楽ジャック・ニッチェ
配給コロンビア映画
上映時間89年
製作費800万ドル(約8億円)

【あらすじ】1950年代のアメリカ・オレゴン州の小さな町。ある夏の日、4人の少年は、山奥で列車にはねられた子供の死体を探し出かける。主人公のゴードンは、亡くなつた兄と比べられ、親から疎まれ、自信が持てない。また、他の3人もそれぞれ悩みを抱えていた。4人はこの”小旅行”で赤裸々な自分をぶつけ合い、友情を深めていく。そして彼らが見つけたのは・・・。

「スタンド・バイ・ミー」は実話なのか?

この作品の原作は、ホラー小説の奇才・スティーブン・キングの短編集『恐怖の四季(Different Seasons)』 に収められている『The Body(身体)』。ちなみにこの短編集には、映画「ショーシャンクの空に」の原作『刑務所のリタ・ヘイワース』も含まれています。

そこで問題になるのが、この小説がキングの子供時代の出来事を基にしているのかということです。

しかし、残念ながら、主要な登場人物たちと物語全体が実話に基づくのかどうかは、はっきりしていないようです。キング本人も、この点に関して公には発言していません。(2021年5月22日時点)

また登場人物の設定を検証すると、現実との相違も見えてきます。後に作家となった主人公のゴーディは、もちろんキング自身の投影です。しかし、ゴーディには両親がちゃんといますが、キングは子ども時代に父親と離れ離れになっているのです。そうは言っても、

物語が全くの作り話というわけではないようです。

なぜなら、それを裏付けるエピソードがあるからです。

映画完成後、ライナー監督はキングをプライベートな試写に招待しました。映画を見終わったキングは、その出来に大変満足したようです。あるインタビューでキングはその時のことを話しています。

「映画は小説に忠実で感動的だった。試写が終わったとき、私は監督を抱きしめた。映画がとても私の自伝のようだったので、泣いてしまいまったのです」

つまり、映画で展開する4人をめぐる日常が、キングの子供時代を彷彿とさせるものだったのでしょう。

また、劇中の「死体探し」は、キング自身の体験にインスピレーションを得たように考えられます。

キングは4歳のある日、線路脇に住んでいた友達のところに遊びに行きました。1時間すると顔面蒼白で帰宅し、その日は口をきくことが出来なかったそうです。

キングの母親は、あとで知ったのです。彼の友達が線路で遊んでいた時に電車に引かれて亡くなつたことを。しかし、キングは現場を目撃したかどうか、覚えていないようです。

監督が交代、そして撮影中止の危機も

映画化の準備が始まったのは1983年。プロデューサーのエバンスが原作を読んで直ぐに行動に起こしました。

監督は最初、映画「フラッシュダンス」で有名なアドリアン・リン監督で内定していました。しかし、ミッキー・ローク主演の「ナインハーフ」を撮り終えると疲労困憊で休暇を取らざるを得ず、仕方なく降りてしまいました。そして、テレビや映画のコメディーで人気があるものの映画監督として駆け出しだったロブ・ライナー監督に白羽の矢が立ったのです。

すると今度は、撮影が中止の危機に。

制作会社はエンバシー・ピクチャーズだったのですが、撮影が始まる直前、同社がコロンビア映画に買収され、撮影中止を命令されたのです。

ところが、エンバシー・ピクチャーズのオーナーの一人、ノーマン・リアが映画化を強く望み、自ら約7.5億円のポケットマネーを寄付。撮影は無事スタートすることができました。ところが、次に問題になったのが、

タイトルの問題です。

プロデューサーのエバンスは、原作のまま「ザ・ボディ」としたかったのですが、コロンビア映画が難色を示しました。理由は、「身体=死体」からは典型的なキングのホラー映画、「身体=肉体」からセクシャルな内容を連想させるというのが理由です。

そこでライナー監督が、ベン・E・キングの曲「スタンド・バイ・ミー」から取ることを提案し、採用されたのです。

原作との大きな違いは?

シナリオの第一稿を渡されたライナー監督は、いまひとつ映画としてのものたりなさを感じていました。しばらく思い悩んで出した結論は、

ゴーディが物語の中心人物すべき。

原作は4人の少年たちが公平に描かれる群像劇でした。しかし、そのまま映画にしてしまうと、観客の関心が散漫になってしまうのです。

4人はそれぞれ悩みを抱えていましたが、ゴーディの悩みが特にドラマチックでした。両親が誇りにしていた学力も運動も優れた兄が急死し、残された弟のゴーディは疎外感を感じているという設定です。

この優れた兄弟へのコンプレックスを抱くキャラ設定はよく用いられ、有名な映画ではジェームズ・ディーン主演の「エデンの東」(1955年)やブラッド・ピット主演の「リバー・ランズ・スルー・イット」(1992年)があります。

結局、ライナー監督が共同プロデューサーのアンドリュー・シェインマンと相談し、ゴーディが中心の登場人物になったのです。

キャスティングの裏話

どの映画でも、キャスティングがスムーズに進むことは、まずありません。この映画でも、「え?そうだったの」という話があります。

大人のゴーディを演じるのは、「グッバイ・ガール」(1977年)でアカデミー主演男優賞を受賞したリチャード・ドレイファスです。ただ、最初から彼が演じると決まっていたわけではありません。

当初はデビット・デュークスという俳優を配役する予定でしたが、実際ナレーションのテストの結果、ライナー監督が好む声のトーンではなかったので降ろされました。

その後、アメリカで有名なテッド・ベゼルやマイケル・マッキーンらが候補になりましたが、結局決まらず。最後はライナー監督の高校時代の友人でもあったドレイファスに頼んだというわけです。

大人のゴーディ役以上に難しかったのが、子役たちのキャスティングでした。約300人の子役がオーディションを受けたといいます。残念ながら選ばれなかった子役の中にも、後日、頭角を表す子役もいました。

  ゴーディ  クリス  バーン  テディ

その中には、ショーン・アスティン(また「ロード・オブ・ザ・リングス」のサム役)。イーサン・ホークスティーブン・ドーフ(「ブレイド」の悪役)などがいます。

この映画には、4人の子役以外の子役にも恵まれました。不良の役を演じたキーファー・サザーランドは、後にテレビドラマ「24」で大ブレイク。ゴーディーの兄を演じた、ジョン・キューザックは、「マルコヴィッチの穴」(1999年)などで名演ぶりを見せました。

撮影中もいろいろありました!

映画の主な出演は4人の子どもたち。撮影はハプニングの連続だったようです。ここからは、とくに子供ならではのエピソード中心に紹介します。

機関車に引かれそう?

この映画の中で一番スリリングなシーンは、なんと言ってもゴーディと太めのバーンが機関車に引かれないように必死に走るシーンです。二人は間一髪で鉄橋を走り抜け、事なきを得ます。

撮影は本当に危険だったのか?

そこは映画、安全第一で撮影されたようです。まず、鉄橋を横から捉えた機関車の前を走るゴーディたちのカットは、スタントマンが演じました。扮するのが少年なので、小柄な女性が髪の毛を短くして臨んだそうです。

機関車に追われる?ゴーディとバーン(もう一度見たい人はこちら)

また機関車の正面を捉えたカットは、最も臨場感がありますが、大変に危険そう。しかし、実際の機関車と少年たちの距離は離れていました。これを望遠レンズで撮ると近づいて見えるという

映像のトリックを使っているのです。

さらに二人が安全に走れるように、足元にはべニアが敷かれていました。しかし、こうして安全を万全に期したため、逆に問題が起きました

猛暑の中、何回やってもゴーディとバーンに必死さが出ないのです。その辺が子供です。安全と分かっているから、へらへらと走ったのでしょう。これではシーンが台無しです。

そこでライナー監督が秘策に出ました。

突然、ものすごい権幕で怒り出したのです。

「お前たちがちゃんとやらないから、スタッフが疲れ果ててしまった。機関車がやらなければ、おれがお前たちをぶっ殺すぞ!」。

そのマジ切れに震えあがった二人は、泣きながら必死で走りました。もちろんテイクはOK。ライナー監督は、カットをかけると二人を抱きしめたそうです。

池の中のヒルは本物?

猛暑のなか、森を奥に進む4人。突然、道を池に阻まれます。クリスが棒切れで深さを確かめから一斉に渡ろうとした途端、少年たちは深みにはまってしまいます。実はこの池、

スタッフが撮影前に作った人工の池。

それが2週間も前だったため、すっかり周りと馴染み、違和感なく現場に溶け込みました。

少年たちは水の中ではしゃぎ始めますが、自分たちの体にヒルがこびり付いていることに気づき、大パニック。ヒルに下半身をかまれたゴーディは、ショックで気を失ってしまいます。このシーンのことをいろいろ調べてみると、

使われたヒルはどうやら本物。

サイズも大きく、子どもたちの体に付けるのも大変だったと想像されます。が、一部でこれも作りモノだったという情報もありました。次回見る時には、画面を止めて確かめてみてはどうでしょうか。

死体発見のリアルさ

いくら名子役でも、未経験のことをリアルに演じることは難しい。この映画で一番の極めつけは、

少年たちが死体を発見するシーン。

ライナー監督はこの大事なシーンで、逆手に取った方法で子役たちのリアル感をうまく引き出しました。(秘策その②です)

通常、死体(俳優か人形)は撮影前に所定の場所に配置され、リハーサルから俳優は見ることができます。しかし、この映画の場合は違いました。ライナー監督は本番まで死体を子供たちに見せませんでした

少年たちの初体験をカメラで捉えるためです。

たとえ偽りでも死体であっても、4人はそれを見つけるまでドキドキだったのでしょう。結果、このシーンの撮影も大成功。彼らは本物の死体を見つけたような、迫真の演技を見せました。

フェニックスを泣かせた秘策(その③)

個性豊かな少年をそれぞれ演じた4人。その中でも特に光っていたのは、間違いなくリバー・フェニックスでしょう。

映画ではウィル・ウォートンが演じるゴーディーが主人公になっていますが、フェニックスが演じたクリスの存在感は圧倒的でした。もちろんルックスもいいのですが、演技の幅に魅かれた方も多かったと思います。そのクリス一番の見せ場が、

心の闇をゴーディに打ち明けるシーン。

しかし、大人の俳優であっても「さあ泣いて」と言われてなかなか泣けるわけでありません。それが子役ならなおさらです。そこで絶妙な手助けをしたのが、やはりライナー監督でした。

このシーンの撮影が始まる前、フェニックスはライナー監督からアドバイスされたといいます。

「自分にとって大切な人に、助けて貰えず、ショックを受けたことを考えてみろ」。

そして撮影に望んだフェニックス。それまでの自信が嘘だったかのように、ゴーディの横で号泣したのです。ライナー監督が仕掛けたのは、過去に自分が経験した感情を代用して演技する方法で、アメリカでは「メソッド」と呼ばれています。

この映画に出演後、「旅立ちの時」でアカデミー助演男優賞にノミネートされるなど、スター街道を歩み始めたフェニックス。しかし、1993年、ジョニー・デップが経営するナイトクラブで薬物摂取が原因で倒れ、

病院へ搬送中に死亡。23歳でした。

名作として愛される映画に

当初、ヒットするとは思われていなかった「スタンド・バイ・ミー」。しかし、公開すると人気は上々。低予算映画にも関わらず興行収入は、

北米で5000万ドル(約50億円)を突破しました。

評論家などからの評判も良く、アカデミー最優秀脚色賞とアメリカ監督組合の監督賞でノミネート日本アカデミー賞では外国映画賞を獲得しました。

ライナー監督も名監督の一員に

この映画の制作後、ライナー監督は自分のプロダクションを設立。その名前を映画の舞台となった架空の町からとって、キャッスルロック・エンターテイメントとしました。

その後もライナー監督とキング原作との関係が続きます。1990年には「ミザリー」を監督し、会社として「ショーシャンクの空に」を世に送り出しました。

そして、トム・クルーズ主演の「ア・フュー・グッドマン」(1992年)で、アカデミー作品賞と監督賞を受賞し、名監督の仲間入りを果たしました。

「スタンド・バイ・ミー」永遠に

公開から35年が経った「スタンド・バイ・ミー」。古いファンのお好み映画でありながら、新しいファンも生み続けています。

その愛される映画を祝して、主に撮影が行われた町・オレゴン州ブラウンズビルでは、2013年以降、毎年7月に「スタンド・バイ・ミーの日」があります。この日は、映画でも登場したパイの大食いコンテストや、線路上ハイキングが開かれるようです。そして、

2021年5月23日・26日には、35周年を記念して、全米でリバイバル公開されます。(クリックで予告編が見られます)

これからも「スタンド・バイ・ミー」は、誰もが子供時代に思いを寄せる大切な映画として愛され続けることでしょう。■

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