マイカーは無くなるの?~2分で知る【クルマ】の未来

マイカーは無くなるの?~2分で知る【クルマ】の未来

「今後、クルマをめぐる環境はどうなっていくのか?」そして、「街のモビリティ(移動手段)の未来とは?」

毎日の生活に移動はつきものなだけに、あなたも時々思い浮かべる疑問ではないでしょうか。特に東京など都市部で連日、満員電車に長時間揺られたり、長い渋滞でイラついたりする時には、こう叫びたくなりますよね。

「子供の頃、図鑑で見た快適な移動は、いつ実現するのだろうか?」

私たちの生活に不可欠な移動手段は、大きく分類すると鉄道、飛行機、船、そして自動車があります。公共の交通機関はともかく、街にあふれているクルマのあり様をどう変えていくかは、快適な未来の社会生活にとって重要な課題です。

最新の解決策を垣間見るために、先日、東京オートショーに行ってきましたが、そこで強く感じたのは…

自動車業界は、未来に危機感を感じている

ということでした。その危機感とは、「マイカーが売れなくなる」という死活問題に対するものです。しかし、同時にそこには「未来のクルマ」のあるべき姿が見えたのです。

「自動車展示会」が「テーマパーク」になった!

10月24日から11月4日まで東京の有明・青海地区で開かれた第46回東京オートショー。12日間の来場者数は135万900人と、前回2017年(10日間)の7割増とまずまずの結果だったようです。

筆者は、長年住んでいたアメリカで度々現地のオートショーに訪れましたが、日本のオートショーは実に20年以上ぶりです。その会場に入るなり思ったのは・・・

ここはテーマパークなのか?

肝心の市販車はあまり展示しておらず、パステルカラーの張りぼての間にコンセプトカーがポツリポツリと点在。まるでディズニーランドのアトラクションに迷い込んだような感じです。日本のクルマ好きにとっては近年、見慣れた光景かもしれませんが、クルマだらけの「展示会場」を想像していた“帰国中年”にとっては、非常に違和感がありました。(それ自体が、今のクルマ業界を反映していたのですが)

三菱自動車の展示

さらに驚いたのは、定期的に始まる「ステージショー」。紹介すべきクルマは引き立て役にさせられたり、脇に押し込められたりされ、その代わりダンサーや演者がミュージカルよろしく、歌ったり踊ったりしているではないですか。

トヨタの展示スペースで行われた「ステージショー」

さらにクルマには直接関係がない「よけいなモノ」が、あちらこちらで幅を利かせています。即席コンビニであったり、くじ引きコーナーであったり。それは、まるで…

クルマがあると、こんなに楽しくなるよ!

と思わせるため、必死に盛り上げているようです。そんなことを思いながら、会場を歩き回っていて、ふと気が付いたのは…

外国の自動車メーカーが、ほとんど出展していない。

正々堂々とした形で出展している舶来の自動車メーカは、メルセデスベンツと日産と関係が強いルノーぐらいでした。クルマと言えばグローバル経済の象徴といえるのですが、そのショーケースであるオートショーでこの状態。やはり何かが急速に迫ってきていると言えるのではないでしょうか。

日産自動車の隣で展示のルノー

トヨタのコーナーで行われたラップ調の激しいダンスパフォーマンスを複雑な気持ちで見終わつたあと、「運搬電動カート」のコーナーにいた技術系の社員に、テーマパーク化した展示会のあり様について単刀直入に聞いてみました。

「自動車メーカーは、生き残りをかけているのでしょうか?」

「まったくそうですね。サバイバルです」

自動車業界が自動車以外でポジティブな空気をアピールしようと躍起になっている展示会。その背景にある生き残り戦略が迫られる状況とは、いったいどういうことなどでしょうか。

クルマが持つステータスの低下

世界的なコンサルタント企業、 ボストン・コンサルティングによると、新車の自動車販売数は「少なくとも2025年までは緩やかながら成長が続くものの、その後は減少に転ずる」そうです。

さらにクルマをめぐる変化は、量だけでなく「クルマに求められるもの」が変わってきているようです。

①クルマは買わなくてもいい!

先進国を中心に格差社会が広がる中で、中産階級、とくに多くの若者の収入が低いまま押さえられている現実があります。

国税庁の調査(平成30年)によると20~24歳の平均年収は267万円、25~30歳が370万円。少数の富裕層が平均を引き上げていることを考えていると、多くの若者の所得はこれよりもさらに低いと考えられます。

こういう生活環境のせいもあり、若者の中心に生活に対する価値観が変わってきたと言われています。

特筆されるのはモノの所有に対する執着心が無くなったことです。それに呼応するように、多くのモノが貸し出し、つまりレンタルやシェアする形で提供されるようになりました。 それを象徴する言葉が…

「シェアリングエコノミー」です。

個々がモノを所有するのではなく、「モノを必要な時に必要なだけ使う」という思考に基づく経済活動です。ITの発達でそれが迅速で安価に行われてることで、この傾向を加速度的に押し進めているようです。

ひと昔前まで、映画を自宅で見るためには、ビデオテープやDVDを買ったり、レンタル屋に借りに行ったものです。しかし、近年、自宅にいながら映画をネット経由で自由に見られるようになりました。

多くの人にとって不動産の次に高価な買い物になるクルマなら、この考え方の影響を強く受けるのは当然の成り行きです。

「クルマを所有することに価値があった時代」は終わりをつげ、旅行先で利用していたレンタカーを日常的に利用することが、普通になり始めているのはこのためです。

②スマホに負けたスポーツカー

ITの日進月歩の発達により高速情報社会になった現代。クルマに強敵が立ちはだかっています。

それは、「スマホ」です。

良し悪しに限らず、現代人はスマホにくぎ付けです。ニュースのチェックや買い物、銀行の支払い。情報にかかわる多くのことが、手のひらに乗る小さなデバイスで簡単に素早く出来るようになりました。

それに伴い、人々の日常の行動はガラリと変わりました。時間があれば、スマホを覗く。そのため貴重になったは…

「移動の時間」です。

電車やバスの中を見回してください。10人に8~7人の人が、スマホに目をやっています。(そして、あなたも!)昔から本や新聞に目を落とす人はいましたが、その割合はたかが知れていました。

もしあなたがマイカーを運転しているとしたら、スマホに目を落とすことはできません。たとえ物理的にできたとしても、見つかれば違反になります。そうなると、運転する時間に対するストレスが日々積み重なり、当然クルマに対する所有欲が大きく減退する考えられます。どんなに速いスポーツカーでも、スマホに勝てない時代になったのです。

クルマが生き残るカギは…

クルマは「運転自体に喜びを感じる人」にとっては、所有の対象になり続けるでしょう。誰かに運転を任せられる財力のある人も、(運転できる)クルマを求めるかもしれません。しかし、その他の人にとっては、もはやクルマは買うことに躊躇するモノなのです。

①運転の手間を省くクルマ

そんな市場の変化で苦境に立たされている自動車メーカー。活路はどこにあるでしょうか。その答えは、ズバリ…

「自動運転車」です。

つまり持ち主に運転をさせることなく、目的地まで運んでくれるクルマです。ここで肝心なのは、オーナーが一切運転する必要がないという「完全自動運転」であることです。「危険な時は対応してくれ」というクルマでは意味がないわけです。

今回のオートショーでも、その実現を想定したコンセプトカーが展示されていました。見た印象は小さなリビングルーム。座席は対面式で、ハンドルの姿はありません。バス型の大型のものから、二人乗りの小さいものまでありました。

ダイハツの自動運転車

ただ、いつ実現するのかという問題があります。会場内を探してみましたが、具体的に市販の予定を謳っているメーカーはなかったようです。

数年前はAIブームの盛り上がりで、完全自動運転の実用化も近いと思わされました。しかし、去年あたりからブームも落ち着き、期待もトーンダウンしたようです。

また去年、自動運転技術のトップリーダーでもあるベンチャー企業のウーバーが進めている自動運転のテスト走行で、初の死亡事故が起きてしまいました。調査報告によると、直接の原因は運転席に乗っていた試験者の注意散漫でしたが、その裏には歩行者を的確に認識できなかった技術的問題があったようです。

また、技術的な課題に加え、事故時の責任の所在などに関する法的な取り決めのルール作りが各国でスムーズに進んでいない状況があるようです。

しかし、「運転をすることなく移動したい」というユーザーの欲求は、間違いなく膨らんでいくと思われ、自動車業界にとって自動運転車の開発・販売は避けては通れない道になっているのです。

参考:「自動運転タクシー」にはいつ乗れるのか?

②繋ぎは多目的車で乗り切る

いつかは自動運転車が主流になるものの、それまでは5年、完全移行には10年かかるかもしれません。自動車メーカーはその時まで、生き残っていかなくてはなりません。そこで、彼らが考えているのが…

多目的車の販売です。

移動が主目的なクルマに補完的な価値を与えることによって、ユーザーの購買に幅を広げていこうとしているのです。

今回のオートショーでは、これまで以上にアウトドアを意識したクルマや、パーソナル感が強いクルマ(というかバイク)の展示が目につきました。さらに、クルマ以外に、ドローンや無人運搬ロボットなどヒトを載せない車両(というかデバイス)を紹介しているメーカーもありました。

特にヤマハは、もともとクルマに特化していない企業だけに、オート(クルマ)とは呼べない様々な商品を展示していました。

ヤマハの“三輪車”

しかし、この動きはユーザーを再び拡大することになりますが、メーカーが最も大切にすべきコアなクルマ好きが離れる恐れもあります。彼らは純粋な走りをメーカーに求めているはずなので、「なんでも屋」に対して反発も生まれるでしょう。

オートショーが無くなる?

次回のオートショーは2年後、2021年の開催が予定されています。オリンピックが過ぎ、次なる大イベントは2025年の大阪万博となります。それに向けて技術系のメーカーを中心に日本のビジネスは徐々に盛り上がるはず。日本の自動車メーカーにとっても好機と言えます。

日本自動車工業会会長の豊田章男トヨタ自動車社長は、次回、2021年のオートショーに向けて次のようなメッセージを出しました。

「今回はいつもと少し違うな」と感じられたかもしれません。これから大いに変わっていく部分と、これからも大切にし続けていく部分とがクルマにはあります。(中略)想像をはるかに上回るようなモノを2年後のモーターショーでまた提案できると思っています。

豊田氏の言う「いつもと違う」部分とは、単にクルマの展示だけにするのではなく、ジャンルを超えた最新新技術を紹介する会場を設けたり、家族が遊べる野外コーナーを設置したりしたことを言っているのでしょう。

そういった趣向によって、イベントとしてのオートショーは成功したのかもしれません。しかし、同時に今まで通りにクルマだけ展示するだけでは人は集まらないということを証明してしまったのです。

トヨタの受付ロボット

次回のオートショーは、さらに元来のクルマの影が薄くなるイベントになるでしょう。早かれ遅かれ自動運転の開発は進み、マイカーは「移動する自宅」となっていくのです。そして将来、「オートショー」というイベントは無くなり、クルマは家電ショーに取り込まれるのではないでしょうか。

自動車メーカのは、その日の到来に今から危機感を抱いているのです。■