【なつぞら】はこれ以上、面白くならない?~【朝ドラ】の限界

【なつぞら】はこれ以上、面白くならない?~【朝ドラ】の限界

NHKの朝の連続テレビ小説「なつぞら」が好調です。物語の舞台が第8週から東京に移り、視聴率が20%を切る日もチラホラ見られましが、ここ2週で勢いを取り戻した感じがします。

それは、ストーリーの軸が主人公なつ(広瀬すず)が抱く「アニメーターになりたい」という夢に集中したためだと思われます。ただ、目の肥えた視聴者の中には、「なにか物足らない」とか「やはり朝ドラは朝ドラ」と感じながら見ている人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、その理由と朝ドラが抱えている「限界」について書いてみたいと思います。

ドラマの一番おいしい部分

前回の記事では、「なつぞら」の視聴率下降の可能性について紹介しました。北海道から東京に出てきた妹・なつと兄・咲太郎(岡田将生)との不毛なやりとりが繰り返され、物語が停滞しまったのです。

朝ドラ【なつぞら】視聴率ダウンの予感~面白さ半減の理由は?

ところが、冒頭でも書いたように、「なつぞら」は6月に入って“あるべき姿”に戻りました。それは、

なつが、人生の夢に向かっている

という展開です。なつの人生の夢とは、「アニメーターになること」です。ここ数週間にわたり、視聴者は彼女の夢に向けた「切磋琢磨」を目の当たりにしてきました。主人公である彼女の頑張りに共感し、エールを送ってきました。これは、視聴者と主人公の理想的な関係で、ドラマだけでなく映画でも小説でも一番おいしい部分と言えます。

なつの夢は達成されてしまった!

ただ、第11週において、なつは物語上の一つの到達点に達してしまいました。それは、

夢だったアニメーターになったということ

つまり、北海道編でアニメーターになろうと決心してから走り続けてきたなつが、ゴールに達してしまったのです。ここで多くの視聴者は、なつと共に達成感を味わうと同時に、ドラマに対する興味がトーンダウンしてしまうのです。

6月17日の第12週からは、アニメーターになったなつが、どんな困難に直面していくか。そして次のゴールを設定できるかがひとつ見どころになるでしょう。しかし、それは視聴者を完全に引き戻せるような分かり易いゴールにはなりそうもありません。

主人公に必要なライバルの存在

さらに今、「なつぞら」に求められるのは、なつの新しいライバルの出現です。人の記憶に強く残る映画を含むドラマに欠かせないのが、

主人公を最後まで危うくする「ライバル」の存在です。

「スターウォーズ」の主人公ルーク・スカイウォーカーのライバルは父親でもあるダース・ベイダー。宮崎駿監督のアニメ、「千と千尋の神隠し」の主人公・千尋のライバルは、湯場の老魔女・湯婆婆です。

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ここで言うライバルは単に敵対する関係(例えばゲームのビックボス)ではなく、精神的な交流や刺激を互いに受けながら成長、もしくは変化していく関係でなければなりません。「なつぞら」の主人公・なつにとってのライバルは、間違いなく祖父的存在の柴田泰樹(草刈正雄)でした。しかし、東京編となり、二人の対決は休止状態となってしまいました。

なつの新しいライバル?

東京編になり、泰樹の代わりになりそうなライバル候補の出現に期待した方も多かったでしょう。そして登場したのが、セカンド・アニメーターの大沢麻子(貫地谷しほり)です。

なつに対する風当たりの強さ、そして男を向こうに回すキツイ性格。同僚でかつ同性ということで、ライバルとしては好都合かと思われました。しかし、それも登場後、1週間でその役割を大きく放棄した動きを見せました。

なつの才能をあっさりと公に認め、そしてアニメーターになる手助けまでしてしまうのです。これでは、ライバルとして物足りません。もし、なつの才能に気が付きつつも、彼女の昇進を妨害する動きに出ていれば、ドラマの最後までなつの前に立ちはだかる「本当のライバル」になりえたかもしれません。

ただ、なつぞらの公式ページによりますと、第12週でなつと麻子は多少激突するようです。

あるキャラクター像をめぐって、なつと麻子(貫地谷しほり)の意見が激しくぶつかり、2人は闘志を燃やす。

NHK「なつぞら」公式サイトより

どれだけ麻子がライバルとして踏みとどまるか、見届けたいと思います。

朝ドラの宿命とは

一方、なつが東京に来てからのストーリーをよく考えてみると、多少の障害はありましたが、物事が嘘のようにスムーズに進んでいいるように思えます。

家族的な懸案事項であった兄・咲太郎を探す件もあっさりと解決し、いまでは母親的存在の岸川亜矢美(山口智子)の下で共に暮らしています。また、アニメーターになる夢も周りの熱い支援で達成してしまいました。

骨のあるドラマならば、主人公は現実に打ちのめされ、性格は屈折して、のた打ち回り、周囲の人を傷つけながらも、そこから学び、最後はゴールになんとか到達する。(映画「ゴッドファーザー」の主人公・マイケルですね)しかし、朝ドラではそんな重厚な主人公は到底期待できません。

そこには、朝ドラの宿命があります

つまり、視聴者に対して、公共放送として朝から「深刻な人生ドラマ」など見せられないのです。「誠実で明るく、まっすぐ頑張れば、楽しい人生が待っています」という希望を与えるという朝ドラの責務が、ドラマを奥深くすることを叶わなくしているのです。朝ドラの限界がここにあります。

なつの新たな葛藤に期待

そんな朝ドラの「なつぞら」。今後、よりどころにするのは、定番である「主人公の結婚と家族」の成り行き話です。特に注目したいのは、以前の記事でも上げた、

なつの恋の行方です

以前の記事でも書きましたが、北海道編でドラマが熱を帯びた要因のひとつは、なつをめぐる恋愛話でした。最初は、高校の先輩・門倉務(板橋駿谷)の告白で火花が切られ、柴田家の長男・柴田照男(清原 翔)と山田家の次男・天陽(吉沢亮)との間の三角関係が浮き彫りになり、「なつはどっちを選ぶの」という興味で盛り上がりました。

それが東京編に移り、孤児時代の幼なじみ・佐々岡信哉(工藤阿須加)がなつをどう思っているのか、煮え切らないままになっています。なつの夢がひと段落ついて、話のトーンが落ち着いた今、新たな恋の対象の登場が待たれます。

もしそれが、東洋動画の同僚であれば、仕事との葛藤を含め、面白い展開になるはずです。期待したいと思います。■

【なつ】の恋の行方は?~【なつぞら】クライマックスへの準備を開始